「予後」や「病理」といった医師が使う専門用語について、国立国語研究所が全国の医師を対象に調査した結果、患者に意味が伝わらなかった言葉が、736語に上ることがわかった。
同研究所は来年春をめどに、医療用語をわかりやすく言い換える例などを示した「病院の言葉の手引」(仮称)を作成する。
日本語の調査研究をしている同研究所が、ある特定の分野の専門用語についての用語集を作るのは初めて。
同研究所の杉戸清樹所長は「医師の説明を理解できず、不安を感じながら治療を受けている患者は多いことがわかった。医師と患者さんの橋渡しをしたい」と話している。
調査は昨年11月、全国の医師約2000人に、患者に理解してもらうことが難しいと感じた言葉や、言葉が通じずに困った具体的な経験などを尋ね、364人から回答があった。
このうち最も多くの医師が誤解された言葉として挙げたのが「予後」。
一般的には、病後の経過や病気のたどる経過についての医学的な見通しを指す言葉だが、がん診療の際には「余命」の意味で使うことが多い。
これは医師側の言葉遣いが日本語として適切さを欠くケースとみられる。
77人の医師が「意味が通じなかった」などと回答していた。
「合併症」も40人が「通じない」などと答えた。
多くの医師は、「手術後に最大限努力しても起こってしまう可能性のある副作用の一部」などと言い換えているとしたが、「いくら説明しても『医療ミス』のことだと間違われる」といった声もあった。
「陰性」の場合は、「『インフルエンザは陰性でした』と言うと、『やはりインフルエンザでしたか』と言われた」。
本人や家族にショックを与えないよう「がん」を「悪性腫瘍(しゅよう)」と言い換えたところ、「『がんでなくてよかった』と誤解された」という回答も。
同研究所は、言語学者や医師、看護師など約20人による「病院の言葉委員会」を設け、今年秋までに中間報告をまとめる。
最終的には、医療用語50~100語を選び、公表する。患者側にも広く公開したい考えだ。